今日はあいにくの雨だった。
別にどこに行くわけでもない。
それなのに雨というのは気分がへこむ。
暗いからだろうか。それとも雨自体が気分をへこませているのだろうか。
どちらも違うだろう。おそらく、夜に天気雨が降っても私は気分がへこまないからだ。
むしろ幻想的とすら思う。

私の気分がへこむのはきっと、空が見えなくなったのを雨が強調しているからだ。
そんな、私が心のどこかで求めている「空」へ少しでも近づきたい。
そう思い、私は外に出た。
遠い空へ思いをはせる。
すると自然と私の心は空へと昇った。
そのあまりの気持ちよさに、私は土足のまま空を歩き続けた。
しかし、私も無知だったようだ。宇宙までは想像することができなかった。私は雲と青しかない空で止まってしまった。

これでは逆に私の心もこの空と同じように虚無になってしまうのではないか。
そう思った私は結局、より緻密な地上へ戻ることにした。
「私ではないか。」

地上に降りた私が初めて見たのは空へ行く前の私だった。
私はこんな顔をしていたのか。案外悪くないではないか。
私は空に行く前の私に話しかけてみる。しかし、この私は空についてにしか口を開くことはなかった。
それも空の仕組みなどと言った誰かが答えを持っているものではない。天気の心情といった誰の心の中にもあるものだ。
私はせっかくなのでこいつに実際に見てきた雲と青しかない虚空の空について話した。
「空というのは虚空であり、未知であり果てしなく広く感じる。しかしそれと同時に宇宙に憧れを抱き、地球に支配されている。そんな海を漂う儚い生物が空である。」
無知な私は空というもので多くを語れなかった。
そんな不満げな私をよそにこいつは、つまり地上の私は納得したように首を縦に振った。
私は、こんなにも鵜吞みにする奴だったのか。それとも私を他人だと思って気遣っているのか。
どちらでもいい。とにかく私は私に失望したんだ。
そんなわけでもう地上の私とはもう離れたくなり、私はどこか遠くへ行くことにした。
私が逃げている間も空は私を追いかける。
空に持論を持つなんてことをした私を、そんなおこがましいことをした私を責めているのだろうか。
そんなことを一時間ほど考えているうちに、私はよさげな公園を見つけていた。
「今日はここで一夜を明かそう。」
私は自分の空への持論が間違っていなかったか不安になり、空が見えないようドーム状の遊具の中に入った。

空は見えないが確かに動いているのがわかる。
確かに空はそこにいるのだった。
あまりにも夢心地だった。
あこがれた空は常に消えることがなく、私が空に近づくチャンスも決して消えることがないのだから。
そうだったのか。空を見ないことで私は気づけた。地上の声をより拾うことができた。
空は儚い生き物であるがそれに追従する雲は何も儚いことはなかったのだ。
別にこれは中途半端であるためとかそういうことではない。
空が地上に支配される中で雲は空に地上を運ぶ。
空がどうしようもなく暗くなることがないのは、きっと雲が支配の連鎖を見ることすらできなかったからなのだ。
常に空は雲にあこがれていたのだ。
きっと私が青い空に雲をまいたのも、寂しかったからであろう。
しかし私の場合は別に何かに支配されていると感じていたわけではない。
そんなことを考えることもしないこの私の無知を隠したかったのである。
きっといつも身近に流れてくれる、大地にいてくれる雲を連れていくことで安心感を得ようとしていたのだ。
「あ~。空がこうやって変わっていくのに私なんかに何がわかるのだろうか。」
空の一部しか見ていない私に語る資格などなかったのだ。
私は私に言ったことを後悔した。
次の日、起きたら私は地上の私の心の中に入っていた。

怖かった、私の中を見るのが。まるで画面の先の君を見ているようで。
しばらく心の中で目をつむっていると、私が止まった。
きっと心の中にいる私の存在に気づいたのだろう。
あ~。私はなんて愚かなのだろう。こいつが次に言おうとしていることがわかってしまう。
「君知っているかい空は儚い生き物なんだよ。」
言ってしまったよ。
「僕はね雲といつか話してみたいんだ。」
言ってしまったよ。
雲は空じゃないはずなのに。全く、、私の言ったことを鵜呑みにするから。
そんな私の切ない思いを感じたのか地上の私もどこか切ない顔をしている。
私はそんな顔が見ていられなくて、「いや違うんだよ。君が本当に雲を連れていきたいならそれでいいんだ。」
そう言ってあげた。
それなのに何故だ。こいつは、まだ切ない顔をしている。
「せっかく雲を捕まえたのにな。」
「おい、どういう意味なんだそれは。」
最後まで聞くことができずに私は雲になって消えた。
私はどうやら私の無知を隠すためだけに生まれていたらしい。
どうやらもう雲は必要なかったらしい。